現在のGENESIS松島計画の状況は?

現在はJ-Powerによって環境影響評価方法書に基づき、現況調査・予測・評価の実施や、環境影響評価準備書の作成が行われています。(下図参照)

J-Powerとしては2026年に建設工事を開始し、2028年度に運転を開始することを予定しています。(2025年8月現在)

GENESIS松島計画ってどんな計画なの?

「GENESIS松島計画」は、電源開発株式会社(J-Power)が長崎県西海市にある松島火力発電所の2号機を改修し、今後も活用しようとする計画です。具体的には、老朽化した2号機に、石炭ガス化設備とガスタービン、そして排熱回収ボイラーを付け加え、発電効率の改善を目指します。将来的にはバイオマスやアンモニアの混焼のほか、発電に伴う排ガスからCO2を分離回収し、利用または貯留するCCUS(carbon capture utilization and storage)を行うことも目指しています。石炭ガス化設備で発生する水素の発電利用、または他産業への供給も視野に入れています。

松島火力発電所は、1981年に運転開始した旧式の石炭火力発電所です。非効率な石炭火力の廃止を求めた国際合意に基づけば、本来は廃止の対象です。1号機(50万kW)は2025年5月に廃止されましたが、同年4月から長期停止中の2号機(50万kW)については、GENESIS松島計画に向けて、環境影響評価(環境アセスメント)の手続きがJ-Powerによって進められています

GENESIS松島計画がなぜ問題なの?

①たくさんのCO2 を排出し、地球温暖化を加速
気候危機が深刻さを増しており、地球の平均気温の上昇を産業革命前に比べて1.5℃以内に抑えて、より危険な気候となることを回避することが求められています。世界の国々は2050 年カーボンニュートラル社会を実現することが求められています。そのため、先進国である日本は、2030 年までに石炭火力発電を廃止していくこと(フェーズアウト)が必要です。石炭火力発電は、火力発電所のなかで最も多くのCO2 を排出するエネルギー源です。その発電量あたりのCO2排出量は天然ガスの約2倍です。そして、日本の発電部門における最大の温室効果ガス排出源です。

②老朽化した発電所を延命し、将来にわたってCO2 を排出
松島石炭火力発電所は1号機が2025年5月に廃止されましたが、残された2号機がフル稼働した場合、年間 約300 万トンの CO2 を排出すると推定されます。これは長崎県の年間排出量 814.4 万トン(2019年度[間接排出量])の約 4割に相当する莫大な量です。そして GENESIS 松島計画が実現したとしても削減効果は約10%と、大きな排出削減にはなりません。長崎県も西海市も 2050 年までに温室効果ガスの排出をゼロにすることを目指しています。稼働開始から 40 年以上も経過する老朽化した発電所を延命させ、CO2 の排出を継続することは地域の取り組みに水を差すことになり問題です。

③大気汚染対策の設備が不十分で、健康への影響も心配
燃料となる石炭は、様々な汚染物質を含んでおり、燃焼させることで、窒素酸化物などの大気汚染物質を排出します。これらは、ぜんそくなどの呼吸器疾患に影響します。また、PM2.5 の生成にもつながり、空気が汚染されます。

松島火力発電所は旧式のため、他の石炭火力発電所と比べても大気汚染物質の排出濃度が高く、環境対策が不十分です。これは化石燃料を燃やす火力発電所特有の問題です。

J-Power はGENESIS 松島計画により、排出濃度を軽減させるとしていますが、それでも他の発電所より大きく劣った数値となっています。

出典:GENESIS松島計画 計画段階配慮書P.15 、神戸製鋼所・神戸発電所3‐4号機準備書P.30、電源開発・ANNUAL REPORT 2009より気候ネットワーク作成

④再生可能エネルギーの導入の足かせに
炭素社会の実現、脱石炭火力が国際的に要請されている今、気候変動を加速する石炭火力ではなく、太陽光や風力など再生可能エネルギーの導入を積極的に進めていく社会をつくっていかなければなりません。松島火力発電所がある九州電力管内では、下図のように再生可能エネルギーだけで電力需要を上回る発電する時間帯が増え、太陽光や風力の出力制御が行われています。2024年度、島しょ部を除く九州電力管内では出力制御が計126日間実施され、再エネ出力最大制御量の総計は約200GWにもなりました。一方で長崎県内では五島市沖や西海市江島沖で洋上風力発電の建設が進みつつあり、雲仙市では地熱発電が行われているなど、再生可能エネルギーによる発電がさらに進みつつあります。つまり、火力発電所を延命させることは、地域の再生可能エネルギーの促進にとって足かせやブレーキとなりかねません。J-Powerは、石炭火力発電所のフェーズアウトや電力システムの柔軟な運用についても案を示して検討するべきでしょう。